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「ご主人、あなたは私が何者か分かっていたのか?」
兵達を追い払った女性主人をウィリアムは驚きながら見つめていた。
「いいえ… ただあんたの様子で分かったのよ。ここにはそういう事情の人が来ることが多いから。
全く、何をやらかしたのかしら? 殺人とかだったら、今すぐ出て行ってちょうだい」
「わ、私は殺人などっ!」
女性主人の言葉にウィリアムは反論した。
「分かっているわ。あんたは悪い人じゃなそうだし」
彼女がそう言うと、ウィリアムは黙り込んだ。
二人の間に気まずい空気が漂う。
「…そろそろ行くか。 ご主人、助けて頂いたこと、感謝する」
そんな空気に堪えれなくなったのか、ウィリアムは席を立ち、女性主人に一礼すると、踵を返して扉へと向かう。
「待ちなさい。今外を出歩けば、兵士達に見つかるわよ。明日の朝一番に出れば、誰にも気づかれない」
そんなウィリアムを女性主人がストップをかける。
「何が言いたい?」
「あたしから言わせる気? ったく、つまり今日はうちに泊まって行けって言ってるのよ」
女性主人は髪をかきあげ、恥ずかしそうに言った。
「良いのか?」
「あたしが自分で言ってるんだから、良いに決まってるでしょ?」
尋ねるウィリアムに、女性主人はニコリと笑い、ついて来いと言う。
ウィリアムは素直にそれに従うと、女性主人の後を追った。
「ここ。ちょっと狭いけど使っていいから」
女性主人が案内した先は、酒場の二階にある小さな部屋だった。
「ご主人、本当に申し訳ないな… この恩は必ず」
「もういいって。あとご主人じゃなくてアンナって呼んで。
ここいらじゃ、皆そう呼んでくれてる」
「ア、アンナ…?」
「そうそう。じゃ、あたしは店に行くから。自由にくつろいでてね」
女性主人もとい、アンナはそう言うと扉を閉めて部屋から出て行った。
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