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しばらく二人はお互いを見つめ合っていたが、ついにウィリアムが口を開いた。
「…私はこの国の皇太子、ウィリアム アメストリア。次の国王になるはずだった…」
ウィリアムはアンナに今までの経緯を全て話した。
途中、表情を強張らせるウィリアムをアンナは優しく声をかける。
そうしてウィリアムは全てを彼女に伝えたのだった。
「そう… 辛かったわね…」
アンナは慰めるように、ウィリアムの手に自らの手を重ねる。
ウィリアムは突然のことに体をビクつかせるが、そのまま彼女を受け入れた。
全てを語ったウィリアムは少しだけ、気分が良くなった気がした。
今まで一人溜め込んでいたことを誰かに聞いてもらうことによって、発散できたのだろう。
「聞いてくれてありがとう…。 おかげで少し楽になった」
ウィリアムは初めて微笑みを浮かべると、アンナに礼を言った。
「なら良かったわ。…で、これからどうするの?」
そう尋ねられたウィリアムは少し考えると、口を開く。
「この国に長くいるのは危険だ。だから隣国のランスに行こうと思う」
「そう。でも宛てはあるの?」
カルロスがいれば、彼の知人を頼ることが出来たのだろうが、カルロスはいない。
知人のいる場所すら聞いていなかったのだから、行く宛てなどウィリアムには無かった。
「無い。しかしこの国にいるよりは安全だと思う。幸いランスは中立の国だ。
戦闘に巻き込まれることも無いだろう」
ウィリアムはそう言うが、アンナの顔を不安一色だった。
「それはいいけど、生活とかどうするの? お金はあるの?」
問題はそれだった。普段、金など持ち歩かないウィリアムには、行商人と服を交換して、お釣りとして返ってきた少しの銀貨と銅貨しかなかったのだ。
「…何とかする。大丈夫だ」
「何とかって… 仕事とかしたこと無いんでしょ? 現実はそう甘くはないのよ」
彼女の言う通りだった。
今まで城の中で何不自由無く生きて来たウィリアムにとって、労働という言葉は辞書には無かった。
「そうだな… うん、全くその通りだ」
ウィリアムは声のトーンを落とすと、下を向いた。
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