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「何落ち込んでいるのよ! そんなんじゃ尚更、世の中で生きていけないわよ!
見返してやりなさいよ! あんたを嵌めた奴らに仕返しするんでしょ!」
アンナは落ち込むウィリアムの頭を平手で叩いた。
ウィリアムは驚いて顔を上げる。
「何よ? 人に打たれるのは初めて?」
「…いいや。鍛練でもっと強烈な一撃を受けたことがある」
ウィリアムはそう言うと、ニヤリと口元を緩めた。
「そうだ、復讐だ。私は私を陥れた奴らを許しはしない…! 裏切った全ての奴に復讐してやる! 例え、祖国を敵に回そうとも…!」
「そうだ、その意気込みが大事よ! あんたなら出来る!」
気合いの入ったウィリアムを持ち上げるように、アンナも声を上げた。
その夜は、近所中にウィリアムのアンナの声が響いたと言う。
静かな町に雄鶏のけたたましい鳴き声が朝を告げるように響き渡った。
太陽が東の山脈の尾根から顔を見せ、光の筋が何本も現れ、地上に降り注ぐ。
昨日の深夜遅くに眠りについたウィリアムは今、出発の支度をしていた。
とは言っても、持ち物など剣ぐらいしかないのだが。
「用意出来た?」
「ああ。アンナ、随分世話になったな。心から礼を言う」
ウィリアムはアンナと下の階にいた。
「今になって、あんたから名前で呼ばれるとはね。少し遅かったかしら」
「悪い… 何だかその… 恥ずかしくてな」
ウィリアムが頬を赤くしながら、呟くとアンナはクスリと笑った。
「あら?初なところもあるのね。以外だわ」
「余りからかうな…」
「悪かったわよ。…はい、これ。お昼に食べてね」
アンナはウィリアムに一つの包みを差し出す。確認すると、中にはパンとチーズが入っていた。
「…すまないな。ありがたく頂くよ」
「あとね… 少ないけど持って行って」
次にアンナは小さな皮製の袋をウィリアムに渡した。
再び中身を確認すると、金貨と銀貨が何枚か入っていた。
「お、おい。いいのか?」
慌てたウィリアムが尋ねると、アンナはは親指を立てて頷いた。
「持って行け! 出世払いってやつよ! あんたが王様にでもなったら、百倍くらいにして返してくれたらいいから!」
アンナはそう言うと大きな声で笑った。
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