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知り合ったばかりの自分に、これだけの事をしてくれる。
ウィリアムは彼女がどんな王よりも偉大で、どんな女神よりも慈悲深い存在に思えた。
「アンナ… 何故私にここまでしてくれるんだ?」
ウィリアムは尋ねた。
「何でかしら…? ただ、あんたを見てると放って置けないって言うか…
母性本能が擽られるのよねぇ。それに死んだ父が言ってたの。 困っている人がいれば助けてあげなさいってね。
そうする事で、自分が困った時も誰かに助けてもらえるって言ってたのよ。
だからかな…?」
アンナは遠くを見るように目を細めた。
それはまるで、亡くなった父親がそこにいるかのように。
「アンナ… 」
「ほら! 早く行きなさい! 男だったら振り向くなよ!」
アンナは照れ隠しのように、ウィリアムの背中を押して店の外に出す。
外はまだ早いからだろうか、人の姿は疎らだった。
「何度も言うがアンナ、本当にありがとう」
ウィリアムは真っ直ぐアンナを見ると、頭を下げた。
そこにはもう、一人の皇太子としてのウィリアムはいなかった。
「うん。気をつけてね…。何かあったら戻って来ても良いからね」
「ありがとう。だが、そうならないように頑張る」
「そりゃそうだ。…じゃ、いってらっしゃい!」
「行ってくる!」
ウィリアムは踵を返すと、真っ直ぐ国境のある西へと歩いて行く。
「頑張るのよ… ウィリアム」
アンナは遠ざかるウィリアムの背中を見つめながら呟いた。
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