第壱章 ~傭兵~

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「ご両人、少し良いか?」 「ん? なんだ兄ちゃん」 「見ねえ顔だな」 男達はウィリアムの顔を見る。 「その傭兵の話、詳しく聞かせてはくれないか?」 ウィリアムは彼らの話題の中にあった【傭兵】と言うキーワードに興味を惹かれたのだ。 【傭兵】とは雇傭契約によって俸給を与え、兵隊として働かせる制度のことだ。 近年、戦争による正規兵の減少や契約と言う手軽さから盛んになりつつある。 傭兵は大事な戦力の一翼を担う存在になっていた。 また、たいていは国が募集するものであるから、依頼によっては一攫千金。または出世が出来る。 参加資格は無く、誰にでも傭兵になれるものだから、今では正規兵より傭兵のほうが数が多いと言う事態だ。 しかし、現実は甘くなく傭兵として戦場に赴き、無事に帰ってきた者は中々いない。 必ず怪我を負い、最悪は戦死。 そんな世界なのだ。 だが男達は理想を追い求め、戦いへと身を投じて行く。 「なんだよ兄ちゃん。傭兵になりてぇのか?」 一人の男がウィリアムに尋ねる。 だが彼はウィリアムの体を見ると、蔑むように鼻で笑った。 「悪いことは言わねえ。止めておけ。兄ちゃんみたいなヒョロい体じゃ、あっという間にあの世行きだぜ」 男はそう言うと、向かいに座る男と笑い合った。 ウィリアムはその言葉にムッとなるが、堪えて再度尋ねた。 「どうやったら傭兵になれる?」 「あぁ? 死んでも良いなら教えてやるよ。この店から東に2ブロック進むと、【ギルド】っつう傭兵募集の仲介役をしている店がある。 そこに行きな」 それを聞くとウィリアムは速やかに席を立ち、ローブを羽織ると店を後にする。 「良いことを聞いた。ありがとう」 「あぁ、構わねえよ。まっ せいぜい頑張れや。 死なねぇようにな」 男達は再び大声で笑った。 ウィリアムはその男達の下品な振る舞いに吐き気を催しながらも、店を出て東へと歩く。 今の彼には金が必要なのだ。 それには飲食店などでちまちま働いている場合ではない。 そして彼は自分が傭兵に惹かれた理由として、きっかけをくれた少女のことを思い出した。
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