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それから、どれだけ時間がたっただろうか。
イーチェは鼻をズズっと吸うと、赤く腫れた目を摩りながらウィリアムから離れた。
「すみません… 私、つい」
「…うん」
ウィリアムは恥ずかしそうにもじもじするイーチェを見つめながら呟く。
互いの間に何とも言えない空気が漂う。
こんな時はどう声をかければ良いのだろう。
ウィリアムはため息をついて、窓の外を眺めた。
「ウィルさん… あの」
そうしていると、イーチェがウィリアムを呼んだ。
「どうした?」
「えっと、その… ありがとうございました。何だか、パパに抱きしめてもらっているようで、とても嬉しかったです」
彼女はそう言い終わると、えへへと笑いながら顔を赤くした。
「そうか… それは良かった」
ウィリアムはそんな少女の姿を微笑ましく見ていた。
どんなに大人びていても、根っこの部分は子供なのだ。
イーチェは再び自分の席に着き、冷めてしまった紅茶を啜る。
ウィリアムも元いた椅子に腰掛けた。
「パパは傭兵って言う仕事をしていました。それなりに強くて、有名だったんです。毎月戦いに行っては、大金を持って帰ってきました。そして笑顔で私に、ただいまって言うんです。
仕事の無い日はたくさん遊んでくれて、幸せでした」
イーチェは、ウィリアムが尋ねてもいないのに、思い出すよう話し出した。
ウィリアムは黙って、その話しに耳を傾ける。
「ですが私が9歳の冬に、パパは死にました。戦場で亡くなったと聞きました。
ママはそれがショックで病に臥せて、やがて後を追うように死にました。
それから私はずっと一人で暮らしてきました。 時々、私一人を残して死んで行った両親を恨むこともありました」
イーチェは時々、辛そうに歯を食いしばりながらポツリポツリと話していく。
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