第壱章 ~傭兵~

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それから、どれだけ時間がたっただろうか。 イーチェは鼻をズズっと吸うと、赤く腫れた目を摩りながらウィリアムから離れた。 「すみません… 私、つい」 「…うん」 ウィリアムは恥ずかしそうにもじもじするイーチェを見つめながら呟く。 互いの間に何とも言えない空気が漂う。 こんな時はどう声をかければ良いのだろう。 ウィリアムはため息をついて、窓の外を眺めた。 「ウィルさん… あの」 そうしていると、イーチェがウィリアムを呼んだ。 「どうした?」 「えっと、その… ありがとうございました。何だか、パパに抱きしめてもらっているようで、とても嬉しかったです」 彼女はそう言い終わると、えへへと笑いながら顔を赤くした。 「そうか… それは良かった」 ウィリアムはそんな少女の姿を微笑ましく見ていた。 どんなに大人びていても、根っこの部分は子供なのだ。 イーチェは再び自分の席に着き、冷めてしまった紅茶を啜る。 ウィリアムも元いた椅子に腰掛けた。 「パパは傭兵って言う仕事をしていました。それなりに強くて、有名だったんです。毎月戦いに行っては、大金を持って帰ってきました。そして笑顔で私に、ただいまって言うんです。 仕事の無い日はたくさん遊んでくれて、幸せでした」 イーチェは、ウィリアムが尋ねてもいないのに、思い出すよう話し出した。 ウィリアムは黙って、その話しに耳を傾ける。 「ですが私が9歳の冬に、パパは死にました。戦場で亡くなったと聞きました。 ママはそれがショックで病に臥せて、やがて後を追うように死にました。 それから私はずっと一人で暮らしてきました。 時々、私一人を残して死んで行った両親を恨むこともありました」 イーチェは時々、辛そうに歯を食いしばりながらポツリポツリと話していく。
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