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「そっちはいたか!?」
「いや、そっちはどうだ!?」
衛兵達が城内の廊下を忙しなく走り回っている。
皇太子にとって、今は敵の城の中にいるようなものだ。
全神経を研ぎ澄まして、衛兵達の接近を察知すると急いで何かの後ろに隠れ、やり過ごす。
それを繰り返して、皇太子はようやく王座の間がある城中央までやって来た。
「父上に会わなければ… 会って、私の潔白を証明するのだ」
皇太子は石膏像の後ろから、現れると王座の間に続く最後の曲がり角に向かう。
「止まれ!!」
曲がろうとした矢先、何者かに背後から呼び止められる。
「カルロス…」
皇太子が後ろを振り向くと、そこには抜き身の剣を構えた男がいた。
名はカルロス リッチェル。
アメストリア王国騎士団団長を務める男だ。
皇太子はこのカルロスから、武芸の鍛練を受けており、その強さは身に染みて分かっていた。
「ウィリアム様、どうか大人しくして下され…! あなたにはヨロキ様から処刑の許可も降りている…! 下手な真似はなさらないように」
カルロスは沈痛な表情を浮かべながら、一歩ずつウィリアムに近づいて行く。
その構えに立ち入る隙は無く、少しでも動けば斬る、と言う覚悟が彼の刃から発せられている。
動かなければ捕まる。
動けば斬られる。
この二つはウィリアムにとって、究極の選択であった。
しかし彼はこのどちらも、使う必要は無いと判断する。
何故なら、彼には逃げる理由も斬られる利用も無いからだ。
「聞いてくれ、カルロス! 私は謀叛など企んだ覚えはない!」
「どうか静粛にお願いします…」
カルロスは聞き耳を持たず、ゆっくりと間合いを詰めて行く。
「私が謀叛を起こして何の得があろう!? この皇太子の私がそのようなことをしても意味はない! なら、私はどうして疑われている!?」
「見苦しいですぞ! あなたのそんな姿、見たくは無い!お覚悟召され!」
冷静だったカルロスも、いつまでも叫ぶウィリアムに触発され怒鳴りたてる。
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