序章

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剣は床を叩き、渇いた音を発てた。 「私も、まだまだ甘いな…」 カルロスは剣を鞘に納める。 そして、その場に尻餅を付いているウィリアムに向けて手を差し出した。 「良いのか? 私を助ければ、お前も同罪だぞ?」 ウィリアムはカルロスを見上げながら言った。 「良いのです。あなたのようなお方を失う訳にはいきません。 それよりも、これからどうなさるおつもりですか?」 「父上に会うため、王座の間に行く」 カルロスの手を取り、ウィリアムは立ち上がりながら言った。 「ならば、私がこの場にて兵士達を食い止めましょう。その隙にウィリアム様は陛下の下へ」 「すまないな。カルロス」 「いえ、一度とはいえウィリアム様を裏切った身。この程度でお許しを得ることは出来ぬでしょうが、少しでもあなたのお力になれれば」 カルロスがそう言い終わったと同時に、兵士達の足音が近づいて来た。 「さぁ お行き下さい! 時間がありませぬぞ!」 「うむ、後でまた会おう!」 ウィリアムはそう言うと、王座の間に向けて走り出した。 カルロスはウィリアムの走り去る姿を見送ると、背後より迫る兵達に振り返る。 「リッチェル殿、皇太子殿下を見かけませんでしたか!?」 兵達の中から隊長格と思われる男がカルロスに尋ねてきた。 「いや、見ておらぬな… どうかしたのか?」 「何やら軟禁中の皇太子殿下が部屋から脱走したようで、ヨロキ様からは見つけ次第、殺害せよと」 「陛下は、そのことをご存知なのか?」 「はぁ、陛下も皇太子殿下の処刑を許可しておいでのようで…」 隊長格の男から、それを聞いた途端、カルロスの顔つきが変わった。 「分かった。貴公らは再度城内を捜索しろ。私は陛下の下へ参る」 「はっ!」 兵達が去って行くのを確認すると、カルロスは走り出した。 もしヨロキが奸臣ならば、王は宰相である奴の言を信じるだろう。 つまり、ウィリアムが王の下へ行くと言うことは、自ら殺されに行くのと同等である。 「何故、ウィリアム様を信じなかったのだ…」 カルロスは自分の失態に舌打ちをした。
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