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もう、やめて! 私は、そう叫んでいた。なんて情けない声。
心をかき乱す不協和音から耳を塞ぎたくて、私は声を張り上げる。
しかし愛憎の華は、そんなことを許さない。愉悦に浸っているような、どこか恍惚とした表情で私を見ている。
「本当、可哀想なお嬢さんね」
彼女が私の顎にその手をかける。
「こんな近くで見ても、その目は私を通り抜けてしまうのかしら」
千里眼を茶化しているのだろうか。そんな冗談は、今の私には通用しない。そんな余裕はなかった。
「私は貴女の事実を歪曲してみようと思ったけど……」
十分悲劇的だったわね。
そう冷ややかに言った彼女の表情もまた、軽蔑と侮蔑に満ちていたのを私は忘れない。
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