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私が彼女を突き飛ばしたとき、彼女は驚いた顔をしていた。さすがにそうか。
私には他人の感情などどうでもよいので感情の起伏もいまひとつ理解できない。しかし彼女に悪意は感じなかった。
少女ははじめて笑った。下卑た笑い声。印象とは違う、馬鹿笑いするような笑い方だ。私は呆然としてしまった。
「あはははっ……! 貴女、面白いわ」
私には何が面白いかよくわからなかった。私のような存在が彼女に触れたからだろうか。わからない。
少女はひとしきり笑った後、私を今度は正面から至近距離で見つめてきた。大きく睫毛の長い黒い瞳が私の髪で覆われた顔を見つめる。
私の翡翠色の瞳は少女を見ていた。しかし彼女は気付かないだろう。
少女は口を開いた。
「ねえ貴女、名前は?」
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