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更紗が逝ってから、一年が経った。
高校生活を楽しむ気分にもなれず、ずっと沈んでいた。
「洋(よう)。放課後遊び行かねぇ?」
中学からの親友だ。
でも、そんな気分じゃない。
「悪い。俺用事あるから」
放課後、必ず行く場所がある。
絶対だ。
「こんにちは」
俺はいつも通り、ある家のドアを開けた。
インターホンは押さない。
俺が来ることをわかっているこの家は、この時間鍵をかけていない。
「お帰りなさい、洋君」
奥から顔を覗かせた女性。
それは、愛すべき人によく似た。
「いまお茶入れるわね。あ。お菓子もあるわ。更紗が好きだったやつ。ちょっと待っててね」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、お礼をする。
もう半年以上続けている会話だ。
仏壇の前に座る。
優しく微笑んでいる少女。
「更紗。ただいま」
目をつむり、黙祷する。
この時だけが至福だ。
愛する人の冥福を祈る。
彼女の為に出来る、唯一の事だった。
「いつもありがとうね。はい」
「どうも」
いつものように、お茶を頂く。
そして、お菓子を頬張る。
「更紗も幸せ者だわ。こんなに思われてるんだもの」
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