赤に沈みゆく青

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血に塗れた赤い手が自分の体に垂れ下がっているのを一瞥し、アマテラスは続ける。 「ワシには理解出来ん。だが、興味が湧いた。人間は不思議じゃ」 薄金色の毛並みを持つ狼を見つめる、銀色の狐。 「……本当に、それだけか?」 アマテラスの心の内を見据えようとせんばかりに、ツクヨミの狐目が射抜いてくる。 アマテラスに、その真意は届かない。 「兄者……?」 不思議そうに目を瞬かせた自身と対を成す霊神―――力を失った兄の反応に、ツクヨミは息を吐いた。 「兄者はお前だ。とにかく、我は早急に社へと戻る。アマテラス、頼んだぞ」 それだけ言うと、ツクヨミは鐘の音を鳴らして姿を散らした。 僅かに残った銀色の光が、ティラミスの体へと収束する。 彼女へ霊気を与えて社へ戻ったツクヨミを見送ると、アマテラスは脚に力を込めた。 「……いや、待て!」 全速力で駆け出そうとしたが、アマテラスはハッと息を飲む。 「これ、思い切り走っていいものか!? 人間は脆いからな! 衝撃で死ぬのでは!?」 スタート地点から動く事も出来ず、アマテラスは体で円を描くようにその場で回った。 彼の体から垂れていたティラミスの腕が揺れ、弱々しく持ち上がる。 薄金色の毛並みを掴まれ、アマテラスは首を回した。 「……アマテラス」 「小娘! まだ意識があったか!」 小さな声を掻き消さんばかりの大声で呼び掛けると、ティラミスは何度か苦しげに息をした後、再び口を開いた。 「……急いでくれ……遠慮はいらない……カインさん、に……」 「かいんさん!?」 この前、ツクヨミと話していたティラミスの口から出ていた様な気がする単語だ。 その横で食べる事に夢中になっていた為、どういった内容だったのかは全く覚えていない。 聞き返したが、ティラミスから返答は無く、彼女は苦痛に呻く。 「うぐぐ……ッ、とにかくじゃ! さっき見たデカい街に思いっきり走って、小娘を治す人間を探す!!」 方角は覚えている。 ティラミスの言葉のままに、アマテラスは勢い良く走り出す。 森を駆け抜けて街に着くのが先か、ティラミスが力尽きるのが先か―――自身に託された責の重さなど知らず、アマテラスは真っ直ぐに駆けた。  
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