赤に沈みゆく青

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ドサリと、その身を地に転がした彼女は、力無く呼吸を繰り返す。 意識が遠のいている事に気付き、ツクヨミは鼻頭に皺を寄せた。 「娘、気をしっかり保て! このまま死ぬつもりか!」 檄を飛ばすが、ティラミスは言葉を返さない。 幾ら彼女の体が他の人間と違う事を知っていても、この出血量は危険だ。 「アマテラス! 我はこれから、この娘に霊気を与える。先程消費したせいで底溜まり程しかないがな。どこまで傷を癒せるかは、娘の気力次第だ」 霊気を使い尽くせば、ツクヨミもこの場に留まってはいられない。 ティラミスの魔力消費を抑える為にも、ツクヨミは自ら社へと帰還するのが合理的だ。 だが、そうなるとツクヨミは暫くティラミスの元に現れることは出来ない。 (再び娘が我を呼び出せるまでに回復するまで、アマテラスのみをここに残していく事になる。果たしてそれが、吉と出るか凶と出るか―――) 何しろ、アマテラスは知能が本来よりも著しく低下している。 ティラミスも恐らく指示を出せる状態ではないだろう。 これから彼自身が、全て判断して動かねばならないのだ。 「良いか、アマテラス。娘を運べ。先程見た、大きな街だ。ここから真っ直ぐ、東の方向だ。セレンに着いたら―――誰でも構わぬ。娘を治療してくれる人間を探せ。危害を加えて来ようとする奴ならば、遠慮無く咬み殺せ」 「兄者は―――」 「我の体の大きさでは娘を背負えぬ。霊気を与えて、直ちに消えるべきだ」 意外にも、アマテラスは素直に頷いた。 ティラミスの事を上辺では快く思っていないと思っていた為、文句を垂れると踏んでいたツクヨミは少し驚く。 「小娘は死なさん!!」 「……急な心変わりだが、好都合だな」 アマテラスがティラミスの体を、鼻先で押した。 息絶え絶えな彼女の体をアマテラスの体に乗せるのに、ツクヨミも加わって手を貸す。 紐代わりに、ティラミスの武器の一つであるが、散らばっていた巻物をアマテラスとの体に巻き付けた。 「……小娘は、自分の為じゃなく、他人の事を考えて泣いておった」 俯せに乗せられたティラミスは、既に意識が無いのか、何も言わない。 アマテラスらしからぬ、ひっそりとした声がツクヨミの動きを止めた。  
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