赤に沈みゆく青

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†―――――――――― 巨大なシャンデリアが飾られた、広々としたホール。 暖色の灯りが照らすその空間は、二階三階と吹き抜けになっていて、物音や声がよく響く。 拠点を共有する者達にとって、ここは必然として集会の場となっていた。 しかし今は、青年の呻吟の叫びが響き渡っていた。 蹲り、胸の服を鷲掴んでいる手は血で汚れている。 呻く青年―――クロー・トランジークの元に歩み寄る、一人の男。 漆黒のローブを纏った彼は、同色の長い髪を揺らしてクローを見下ろした。 右頬に酷い火傷の痕を残した顔は一切歪む事なく、ただ無機的である。 その視線が、クローから逸れた。 「―――ケイ。随分と勝手をしましたね」 重く低い声をホールに響かせて、スティルトは壁に凭れている少年を射抜く。 物怖じしてしまう威圧感を物ともせず、ケイは肩を竦めた。 「そう怒んなよ。ちゃんと連れて帰って来てやったろうが」 「―――人の心を壊しておいて、よくもそんな平然としていられるな」 ケイの悪びれない態度を咎める声の持ち主は、スティルトではない。 正面に位置する巨大な階段の踊り場に立つ青年―――ジン・バトルトの姿を見遣って、ケイはせせら笑った。 「なぁに正義ぶってんだ? テメェだって、それ以上の事をやって、それ以上の事を望んでるからここに居るんだろうがよ!」 ジンの紫色の瞳は、ケイに対して明らかな憤怒を宿している。 「まさかテメェ、この捨て駒の勇者に同情してんじゃねぇだろうな? おいおい、召喚師! お仲間ごっこがやりてぇなら他当たりな。俺達は互いを利用し合う為にここに居るんだろ。俺は楽しみたいから、この勇者で遊んだだけだ」 挑発を重ねるケイの発言に、ジンの持つ魔力がさざめき立つ。 橙色の魔力が彼の体から放出され、ジンの肌を包むように撫でた。 「君の粗暴さは目に余る。反省するのに、いい機会だと思わないか?」 言葉こそ穏やかながら、ジンの容貌は普段からは見る影もない程に殺気立っていた。 「上等。テメェとは一度殺し合いたかったぜ」 薄い色素を持つケイの瞳がギラギラと輝く。 口角を吊り上げた彼は、持ち上げた右手に黒い魔力を立ち昇らせた。  
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