どうか、冷めないで。

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泣けなくなったのはいつのことだったかな みんなの優しさが欝陶しく思えてきたのはいつのことだったかな。 いつから仮面のように笑顔を貼付けてきたんだっけな 「まいったなぁ…」 泣きたい、なんて。 何年ぶりに感じた感情? 今、泣けたら。 子供のように大きなこえで泣き叫べたなら。 夢を見た。 真っ暗な世界に一人。 なにも、感じなかった。感じられなかった。 なんにも、見えなかった。 なんにも、聞こえなかった。 自分の声が、でているのかさえ、わからなかった。 いや、そもそも、自分が存在しているのかさえわからなかった。 五感が、死んでいた。 怖かった。 人間が、信じられなかったあの頃に、戻ってしまったかのようで。 もう、いやだ。 いやだ。 いやだ。 いやだ。 「由人。」 声が、聞こえた。 愛しい人の声。 自分を、信じてくれた人の声。 信じることのできたひとの、こえ。 焦点の定まっていなかった目を、彼の手が覆った。 「だぁれだ。」 ひどく、冷たい手だった。 …あぁ、思い出した。 さっきまで、この家には誰もいなかったはずだ。 いつの間にか、ソファーで寝てて、怖い夢をみて、ひとり、泣きそうになっていたんだった。 外に真っ白の雪が降り積もっている。 きっと、ひどく寒いはず。 あぁ、だから、彼の手は冷たいのか。 きっと、この寒いなかを歩いて来てくれたんでしょ? あなた自動車免許もってないもんね。 ねぇ、怖いときに来てくれるなんて、ヒーローみたい。 ねぇ、涙さん。 もし私の中に、まだ、温かいあなたたちがいるのなら、早くでてきて、冷めないうちにこの人の手を温めてあげて。 「由人。」 あ、さっきの質問に答えてなかった。 「なぁに?夾夜。」 「…ねぇ、由人。」 「なに?夾夜。」 「あったかいね。」 「…そうね。」 お願い、涙よ冷めないで。 end
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