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「ゆーずーる。」
満面の笑みを纏って、座っている譲の前に立った。
「涼。おはよ。」
「おはよ。譲、ここはねてるよ。」
「え、うそ?」
少し寝癖のついた譲の髪を撫で付けると、髪は見た目通りサラサラで気持ち良い。
素直に頭を俺に差し出す譲がかわいくて、ずっと撫でていたいくらいだ。
「直った?」
「まあまあ。」
「まあまあって。…てか、涼。ここボタン取れてる。」
座っている譲が、立っている俺のワイシャツについているボタンがひとつなくなっているのに気づいて、つんとつついてきた。
「ああ、ここね。今朝取れちゃった。」
「そうなんだ。つーかさ、前から思ってたんだけど。」
「ん?」
「涼ってさ、いつも俺の前に立つよね?今もそうだし。涼が俺の前に立つと、前見えなくなっちゃう。癖なの?それ。」
そう言って譲が笑う。
癖なんかじゃない、全部俺の計算だなんてことも知らないで。
譲から翔平が見えないようにしてるんだよ。
あいつを見る譲の目は、いつもどっか寂しそうで。
そんな顔させたくない。
何より俺が、あいつを見て欲しくないから。
「そうだった?全然気づかなかった。」
にっこり笑ってそう言えば、譲もまた笑う。
こうしてウソをつけばつくほど、俺の顔の皮はどんどん厚くなっていく気がした。
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