一陣の風、荒立つ雷

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  わた雲が所々空に浮かび、山にその影を落としながらゆっくりと移動していく。 夜は過ごしやすくなったが、日中はまだまだ残暑が残る厳しい暑さである。 都から遠く離れ、高くそびえる山に囲まれた小さな村。 そこで人々は互いに助け合いながらも懸命に生きていた。 村のはずれにある草原の真ん中を走るじゃり道。 腰まで伸びる艶やかな黒髪を左右に揺らす少女は薬草の入ったかごを手に持ち、きょろきょろと辺りを見回しながらそこを歩いていた。 少し先に見える一本の大きな木を見つけると、そこに向かって一直線に進む。 木の目前に来たと同時に枝の上にいる人影に向かって叫んだ。 「紫苑ー!」 その声に枝にいた人物の身体がぴくりと跳ね、下にいる少女を見下ろす。 「……紗綾馨」 寝ていたのを起こされたためか少し不機嫌そうな様子の少年、紫苑。 自分の名前を呼んだ少女が紗綾馨だというのを確認すると、もう一寝入りしてやろうと身体を太い枝に寝転ばせる。
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