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「宿題が1つ片付いた」
乱雑に鞄に用紙をしまい、立ち上がる。いきなり座ったものだから、注目を浴びてしかたなかった。
「恥ずかしいなあ」
「いいだろ。別に。
俺は忘れっぽいんだよ。どうでもいいことはすぐ忘れる。
どうでもよくないことは、いつまでも覚えてるけどな」
「当たり前じゃない?」
「この調査はどうでもいいことだ。だから俺は絶対忘れる」
なに自信を持って宣言しているのかわからない。
確かに忘れたら困りはするが、別に叱られるものではない。
さらにヤルムは自分で言う通り忘れっぽい。こんな配布物も期限を守らないのがヤルムだ。
なのに……なぜこれだけ守ろうとするのだろう?
「クウも絶対忘れるなよ」
疑問の表情を浮かべているクウにヤルムが言った。
「集めるの俺なんだから」
「そういえば、配った人が集めるんだっけ」
「そうだよ。集めるのが俺なのに、俺が忘れてたなんて恥ずかしいだろ。だからさっき書いたんだよ」
「持ってくの忘れたりして」
グッとヤルムが押し黙った。冗談のつもりだったのだが、本気で心配しているらしい。
鞄から出さなきゃ忘れる心配ないのに。
「わかった。明日必ずプリント持ってくよ」
「頼む。
ああ、また明日職寝室行かなきゃいけないのか」
「ご愁傷様」
軽く頭を下げる。ヤルムは本気でいやがっているようで、しばらく、ああ……とか、うう……とか唸っていた。
「じゃあ、僕こっちだから」
「おう、じゃあな。プリント忘れるなよ」
「わかってる。バイバイ」
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