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「ヤルムは偉い」
放課後、疲れて机に突っ伏しているヤルムに向かって、クウは称賛の拍車を送った。
「まあ……な」
ヤルムは動くことなく返事を返す。体力が残ってないようだ。
「でも、凄いね。全員集めるなんて」
「少しでもアクロ先生の印象良くしておかないとさ。
歴史学の単位が貰えないかもしれないんだ……」
「お母さん、そんなことで単位をくれる人じゃないと思うけど」
「いや、わからんぞ」ヤルムが勢い良く机から起き上がる。そして両手拳を握り締め。
「もしかしたら、『ヤルムはやれば出来る子だから、このテストの点は忘れましょう』とかになるかもしれんだろ!」
「ふーん。そうなの?」
クウが問い掛ける。だが、顔がヤルムに向いていない。向いているのはヤルムの後ろだった。
なにかと思い振り返る。
そこには、満面の笑みを浮かべたアクロ教諭の姿。
「そんなこと絶ッ対有り得ないわ」笑ったまま、アクロが言った。
「あははははは……そうっすか……」
「でもお母さん。どうしてここに? 忘れ物?」
アクロは首を横に振った。
「いいえ。ただ、ヤルムを探しに来ただけよ」
「……俺?」
ヤルムが自分で自分を指差す。呼び出させる理由を必死で思いだすが……わからない。そんな心情を読み取ったのか、アクロが話しだした。
「ヤルム。あなた放課後、職員室に来るように約束したの覚えてない?」
簡単な質問だった。
アクロの質問と同時、ヤルムの頭にそのときの光景がフラッシュバックされる。
確かに、あった。言われた記憶があった。絶対行きますと約束した記憶もちゃんとあった。
ヤルムが時計を盗み見る。
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