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約束の時刻を、5分ほど過ぎていた。 アクロが手招きをする。滑らかに動く指は、蛇の頭を彷彿されるほどジットリと来るなにかを放っている。 蛇に睨まれた蛙。ヤルムはそのような言葉を体で表しているようで、ピクリとも動かなかった。 「行ってらっしゃい。気をつけてね」 固まっているクウが背中を押す。ヤルムはふらふらと歩き出し、手招きしている母親に向かって歩み出した。 一部始終を知っている自分ですら、まるで母親の催眠術によってヤルムが近寄っているように見える。 「あ、そうだ」 まだふらふらしている彼に叫びかける。 「今日、僕学校の図書館で宿題済ませてくから、先帰っていいからね」 いつまで待っても、ヤルムからの返事は返って来ない。 だが大丈夫だろう。女教師の肯いた姿が見えた。 クウは鞄を持つと、カーテン越しに窓の外を見た。 影で、天使の姿が見える。 カーテンを開けようかと思った。天使を見たかった。憧れだった。 昨日は見れずに終わった景色。 もう何度見たことだろう。数えればきりがない。それでも何度も見たいと思わせる魅力。酒を飲んで酔ったときに似ている、頭が痺れる感覚。中毒になりそうなほどの天使達の姿。 クウがカーテンに手をかける。開けようとして――でも、止めた。 この前の、気を使ってくれたヤルムの顔が頭に蘇ってきた。今はいないが、きっとまた同じ顔をするに違いない。 「大丈夫」 一度、深呼吸をして図書館へと向かう。 教室を出る間際、見えたのはお母さんが乱暴にヤルムを引っ張っていく姿だった。  
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