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「言い訳があるなら聞くわよ」
職員室で、まず女教師から発された言葉がそれだった。
スラリと長い足を組み、机には立て肘。それだけなのにジワジワと漂ってくるなんとも言えない威圧感に、ヤルムは一歩後退してしまう。
アクロ教諭はそれを追おうとせず、ただどっかりと回転イスに座りながら同じ質問をぶつけた。
「遅れた言い訳があるなら、聞くわよ」
「えっと……」
「ちなみに、クウと喋っていたからってのは無しね」
ぐっと開こうとしていたヤルムの口が固く閉じられる。
言葉を飲み込んだのか、出る直前だった言葉を唇の壁で粉砕したのかアクロにはよくわからない。
ただ、さっき自分が言ったことを言おうとしていたことは確かだと見て取れた。
「私は言ったわよね? 約束したわよね?」
「はい……しました」
また一歩ヤルムが後ずさろうと体を背ける。が、アクロは腕を取ってそれを拒んだ。
グイと引き寄せる。
腕はアクロのほうに引き寄せられたが、上半身は逃げていた。
「理由、あるかしら?」
「理由……無いです。………………………………………………忘れてました」
「そう」
「ええ……。あ……はは……あははははは」
「うふふふふふ」
「あははははは」
「うふふふふふ」
傍からみれば、異様な光景だったことだろう。
2人とも乾いた声で笑い合い、男子の方は逃げようと、教師はそれを逃すまいと腕をしっかりと握り締めているのだから。
「夏休み、宿題増やすわよ?」
「それだけは……」
「なら、夏休み毎日家に来てクウと一緒にお勉強する?」
「それはキツいです……」
「なら……」
そこでアクロ先生が手を離した。
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