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「で、ヤルムは僕に付き合ってていいの?」 「なんだよいきなり」 「学校。歩いてていいの? 飛んだほうが断然早いのに」 クウとヤルムの頭上には、何十人と制服を着た男女がいた。 全員が同じ制服。クウ達と同じ種類ということは、目指す場所は同じ。学校だ。 肩甲骨の辺りから生えている翼。それを羽ばたかせるだけでクウ達よりも数倍早く前進する。 さっきから何人もの生徒達に抜かされていた。 「いいんじゃね、別に。遅刻しないわけだし」 「ふーん。忘れてるね」 「……なにを?」 「今日、ヤルムは配布当番。早く行って先生から書類を貰わなければなりません。 そして今日の担当の先生は?」 ヤルムの顔から血の気が引いた。 「……アクロ先生……」 「正解。僕達の担任であり、怒ると恐―い先生です」 ヤルムの目がすぐ時計塔を向いた。さらにヤルムの顔が青ざめる。 「……わりぃ! ちょっと俺行くわ!」 「行ってらっしゃい。安全飛行でね」 ぷらぷらとクウが手を降る横で、ヤルムは畳んだ翼をもう一度伸ばした。 ヒト1人分はありそうな翼。汚れのない純白を持ち、触らないでもわかる柔らかい質感。 天使人と呼ばれるが所以になった、美しい翼。 「ほんとにわりぃ!」 「いいから早く行く」 ヤルムの背中を勢いよく押して、親友を大空へと向かわせた。 ヤルムは最後に一度だけ自分を見たが、早く行けと視線を送ると空にいる誰よりも早く学校へと飛んでいく。 その姿を見ながら、クウは淋しくため息を吐く。 クウの背中には、羽はあった。 だが、翼は無かった。 肩甲骨の辺りに生えているそれは、翼と呼ぶにはあまりに稚拙。 大きさは手のひら大。これでは飛び立つどころか満足に羽ばたけない。 クウは鞄で羽を隠すようにして学校へ向かった。 登校時、歩いてくる生徒はこの少年以外、いない。  
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