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夏を思わせる熱波を無理矢理カーテンで遮断した教室。
それがどこまで効果があるかわからないが、多少は効いているようで、教室内は若干ではあるが外より涼しくなっていた。
これでクーラーでもあればもっと快適になるのだが、この教室にそんな高価なものは付いていない。
あるのは天井に設置された、4台の扇風機だけだった。
今もそれは稼動しているけれど、顔に当たるのは生暖かい風。言っちゃなんだが不快である。
扇風機より除湿機を付けてくれと切実に願う生徒達を見ながら、アクロ教諭は生徒名簿を閉じた。
「さて、一週間後は夏休みですね」
夏休み、と聞いて僅かだが活気を取り戻す我がクラス。だが騒ぐ体力が残っていないらしく、それはすぐに収まった。
「夏休み前ということで、皆さんも知っている通り、今日から授業は短縮になります。
なので今日の授業はこれでお終い。帰っていいですよ」
あ~、やっとか。眠い。暑いや。といった脱力声があちこちから聞こえてくる。
短縮授業となっている今日だが、いつもより長く思えるのはアクロとて同じだった。
もうテストも終わり、授業も重要な場所をやらない今の時期。
短い授業だが終わる時間が待遠しいため、余計に時間が長く感じる。
それに教室の暑さがさらに長く感じさせ、授業中なのに無意識にまだかと呟いてしまった。生徒に聞かれなくてなによりである。
今日ぐらいはみんな死ぬのもしょうがないかと覚悟していたのだが、まさか自分がそうなるとは微塵にも思わなかった。
「それじゃ、解散」
さらにざわめきが増すクラスを背中に聞きながら、アクロは扉を開けた。
廊下に面している窓は全て青空を映しており、日差しを全面に取り入れている。
試しに窓枠に触れてみたところ、火傷しそうなほど熱を帯びていた。
……廊下にもカーテンが欲しいわね。
校長に直談判しようかと考える。理由は簡単に『生徒が火傷するかもしれないから』だ。
費用はあるはずだから、用意出来ないことはない。
「でも、さすがにそれはね……」
学校の窓全てがカーテンで閉じられているのは如何なものか。
そう思い、アクロ・ライトセレク教諭は職員室へと爪先を向けた。
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