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「危なかった、マジで危なかった。ギリギリ。ギリギリだったよマジで」 いきなり隣りに来たかと思ったら、まずヤルムはそんなことを口走った。 取りあえずクウは近くにあったイスを借りてヤルムに座らせる。 相変わらずヤルムは危なかった危なかったとクウをジッと見つめながら呟いている。 はっきり言って、本人のほうが充分“危ない”人であった。 「お前の母ちゃん、怖すぎだろ」 「そんなこと言われてもね」 「あと30秒遅かったら夏休みも毎日登校して遅刻癖を直せって言われたぞ」 「……ふーん……」 「冗談だと思うか?」 ヤルムの問いに、クウは直ぐさま首を横に振った。 今年で15歳になるクウ。それは15年間、母親、アクロの下にいたということ。 それだけ居れば、どれが嘘でどれが冗談でどれが本気かはだいたい区別が出来た。 「でも、間に合ったんでしょ?」 「一応は、な」 30秒前だけど。聞こえるかギリギリの声でヤルムが声を発する。 小さな声は普段より倍以上感情がこもっていた。 「でも家では優しいよ。お母さん」 「そりゃ教師から母親になっているから。家では遅刻癖を治せとは言われないだろ?」 「そもそも僕は遅刻しないしね」 「そりゃ……そうだな」 授業が早く終わった喜びからか、次々と帰り支度を始める生徒達。 いつもは談笑したり簡単なゲームで盛り上がったりしているのだが、今日ばかりはこの部屋から抜け出したいようである。 おそらく家に帰ればクーラーが効いているのであろう。 カーテンを開けると、飛び立つ天使達の姿。 今日はどの学年も早く終わるので、下校時の光景は圧巻であった。 白翼が太陽光を反射し、蛍光灯が発光しているよう。羽ばたくと落ちる羽毛は風によって起きることなく浮かび続け、粉雪より優しく空を白く白く染めていく。 登校時の比ではない。 カメラマンならすぐさまシャッターを押す光景。そうじゃなくてもカメラを持ってこなかったことを後悔する光景。それぐらい美しい光景だった。  
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