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「もう少ししてから帰ろうか、クウ」
「どうして?」
突然、カーテンが閉められた。ヤルムの仕業だった。
「特に理由はないけどさ」
「……カーテン」
「ああ、眩しかったから」
ヤルムの口調は淡々としていた。こういうときを、クウは何度も見たことがある。
これは、気を使ってくれているときの顔だ。
背中の羽を動かしてみる。羽ばたくことは出来ない自分の羽。動いて数cmといったところだろう。それは揺れたといったニュアンスが近い。
「別に気を使ってくれなくてもいいのに」
「気なんか使ってねえ」
「飛べないからって気にしてないし」
「だから違うって」
「もう慣れたよ」
「だから使ってねえってば」
……頑固だなあ。呆れながら笑ってしまう。
中学のときもヤルムは時々こうして気を使ってくれていた。
翼が小さいのは昔から。学校に入ったからといって大きくなるわけではないため、中学と今通っている高校とでは常に翼に視線を感じていた。
嬉しいことに、中高とイジメはなかった。
クラスメイト達はよく話し掛けてくれたし、仲間外れにしたこともない。
嬉しかった。単純に嬉しかった。
でも、気を使われている感は常に味わっていた。
ヤルムからも、友達からも。
嬉しいような辛い気分。
気を使わせるのが嫌だったからクウも努力はしたものの、やっぱり気を使わせてしまう。
ごめん。心の中だけで謝り、席を立つ。「帰ろっか、ヤルム」
「ん?」
「帰らないの?」
ヤルムの目がカーテンに移動した。不自然じゃないように精一杯努力しているようだったが、演技が下手。バレバレである。
大丈夫だよ。もういないから。そう言いたい気持ちを押さえながら鞄を持つ。
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