日常

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百々高に着く頃にはもう昼休みであった。 「よお。昼から登校とは良いご身分だな」 この若干イヤミな野郎は 『高野 俊樹』(たかの としき) 中学時代からの悪友だ。 「まあな。ちょっとばかし面白そうな所に行ってた」 俺は遠回しに言ってやる。 「へぇ。どう思うよ、麗菜ちゃん?」 俊樹が隣の席の娘に声をかける。 「え?わ、私は…その……」 この妙にオドオドした娘は、 『凉沢 麗菜』(すずさわ れいな) 控えめでおとなしい少女だ。 なぜ、こんな娘が俺達なんかに関わっているのかと言えば…… 「かー!!何でこんなに可愛い娘がこんな奴に惚れてるのかねぇー!?」 「!!」 麗菜がとたんに顔を赤くする。 そう、麗菜は俺に惚れている ……らしい。 「そんな事知らん。本人に聞け」 俺はぶっきらぼうに言う。 「あーあ。そんなに邪険にしてさ…… 僕だったら真っ先にGETするのに……」 初めに、 『“僕”なんか使っていたら非難されるに違いない』 と、語ったのを記憶しているだろうか? あそこまで自信満々で言えたのは、 “僕”を使っているこいつが、実際に非難されているからである。 「お前の意見など聞いておらん」 ひとこと言って、俺は鞄を置きざりに教室を出ようとすると、 「あー、購買ならもう売り切れたよ」 後ろから俊樹の声が飛んでくる。 「………マジか」 「マジで」 「………はぁ…」 諦めて机に座る俺。 まあ、昼くらい抜いても大丈夫だろ。 「あの………」 麗菜が弁当箱を俺の目に差し出す。 「こ、これ……私もうお腹いっぱいだから…… もし、良かったらだけど…」 麗菜が弁当箱を開けると、色とりどりの具が挟まったサンドイッチが現れる。 「良いのか……?」 麗菜の赤く染まった顔がコクリと頷く。 「悪いな……ありがと」 俺は礼を言って弁当箱を受け取った。 麗菜は、心配そうに俺を見つめている。 (まずくても美味いフリしてやるか……) なんて事を思いながら俺はサンドイッチの一つを頬張る。 だが、俺と麗菜の心配は杞憂に終わった様だ。 サンドイッチは絶品の一言であった。
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