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“今夜会えないかな?”
俺はジュンにそうメールした。たまたま今夜は仕事も早く終わる。
(ついてる。)
俺はそう感じた。
“アキラの家に電話してくれた?”
“うん。会って話す。”
ジュンからのメールに、俺は一言そう返した。しつこく質問されたら堪らなかったから。
幸い、ジュンはそれ以上質問して来なかった。
ジュンを迎えに行くと、ジュンは無言で車に乗り込んだ。どう切り出そうか迷っていた俺は無言のまま車を走らせた。その空気を感じたのか、ジュンも無言で居た。
人通りのない場所に車を停めると、俺は決意を固めた。
(下手な小細工しても仕方ない。ストレートにいこう。)
俺は話を切り出した。
「彼の自宅に電話した。」
「うん。」
ジュンは静かに頷いた。
「奥さんと話をしたんだけど…」
(一息に話せ!)
俺は自分自身に喝を入れると一息に話した。
「信号無視のトラックにはねられて即死だったらしい。」
「嘘っ。」
ジュンは即座に言った。
「奥さんにバレたんでしょ?それでそう言ってくれって…」
俺はジュンがヒートアップする前に話を遮った。
「昨日葬儀も終わったって。警察にも確認したから、事実だよ。」
俺はジュンを納得させる為に一つ嘘をついた。
ジュンの瞳が真意を探る様に俺を見つめた。
(信じたくはないだろうけど。)
俺はそう思った。
「あははははっ」
彼女は突然、弾けた様に笑いだした。
俺に初めて見せる狂気の表情に、俺は慌てた。
(彼女を守って。)
頭に響く声に俺は冷静さを取り戻した。
「ジュンちゃん。」
俺はジュンを優しく抱き締めた。
「あははははっ」
ジュンは笑いながら泣きだした。俺は抱き締めながら、ジュンの涙を感じた。
「あははははっ」
俺の耳には彼女の甲高い笑い声がこだました。
やがて笑いが収まり、ただ泣きじゃくるジュンに俺は言った。
「samsara…」
彼女を説得する為に調べた言葉。
「フランスの宗教語で、『輪廻』『転生』を意味する言葉なんだけど、きっと彼はまたジュンちゃんの前に現われるよ。そう信じよう。」
聞いているのかいないのか、彼女は泣き続けた。
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