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母親に叱られたような、そんな気分になる女性の声だった。俺はドアノブから手を離し、頭を掻いた。
「す……すみません」
いい大人が、ちょっと騒ぎすぎたみたいだ。隣の人は黒のTシャツに細身のジーンズ、履きやすさ重視のちょっとダサいサンダルといった出で立ちで、俺と大体同じ年頃に見えたが化粧はしていなかった。弟のトモが、隣のお姉さんが可愛いとメールで騒いでいたが、この人のことだったのだろうか。
――って。
「まさか結城!?」
「湯川さんっ」
“隣のお姉さん”は俺の同僚だった。
「何で、ゆ、湯川さんがここっ、ここに」
慌てた様子ですっぴんの顔を隠す結城。顔は見る間に真っ赤だ。女性にとって、知り合いにすっぴんを見られることは恥なのだろうか?
「ここに弟が住んでいるんだが、連絡が取れなくて心配で」
「そうなんですかーはは……」
ふと、一瞬の沈黙。
「お、おとうとっ?」
結城は目をまんまるにして、両手で頬を包んだ。なんだかリスみたいで、可愛く思えた。
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