魔術師としての日常

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 フローリングの真ん中にガラステーブルがある。  柱にかけられた古時計が、こつこつと正確な間隔で一秒ごとに音を奏でる。  その古時計の短針が九を半ばほど通り過ぎた頃、灰村諷音がベッドの上で目を覚ました。  だが、彼の頭に浮かんでいるのは『?』ばかりである。 「どこ……?」  目を覚ました時、視界に一番に入ってくる天井に日常とは明らかに違うものが吊り下がっていれば、誰もが疑問に思うだろう。  普段ならば、目を覚ました灰村の視界に入るのは、木製の天井から吊り下げられた普通の蛍光灯だったはずなのだ。  なのに――、 「なんで天井が……? いや、夢の続き? ああ、夢以外の何でもないよね」  白い天井から小さいながらも豪奢なシャンデリアが吊り下げられていたら、誰もが夢が幻覚だと思うだろう。 「何言ってんの? アイツらに頭でもやられ過ぎた?」  声の聞こえた方へ目を向けると、そこには呆れたような表情で立つ少女の姿がある。  柔らかそうな栗色の髪は真っ直ぐに伸びており、灰村と同じ学校の制服を着た少女、早乙女聖その人だ。
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