魔術師としての日常

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 もう話す事は話したかな? と考えた灰村は、ベッドに下ろしていた腰を上げて立ち上がる。 「じゃあ僕は帰るよ。今日はありがとう」  そう手当てに対してお礼を言う(灰村的にイジメから助けられたのは大きなお世話だった為)と、そのまま聖の部屋から出る為にドアへと向かう。  だが、灰村の伸ばした手は聖の声により制止させられる。 「は? 帰るなんて無理に決まってるじゃない」  えっ? と不思議そうな視線を聖に向けると、本気で呆れ果てた顔の聖がいた。  彼女に顎で柱にかけられた古時計を指し示され、灰村は時間を見る。  古時計は一〇時を少し過ぎた辺りを差していた。 「あ……」  それで気付いた。  この町は基本的に魔術師と成るに足る資質を兼ね備えた少年少女たちがほとんどである為、夜間外出の取り締まりが厳しく、二二時には全区域外出禁止とされる。  それに、一般人には魔術という存在が極秘とされている為、この町に住める大人は魔術師としての知識を持つ者と定められている。  つまり、一般人の大人たちで組織されている『警察』という機関の介入が認められていないのだ。  ならば、誰が取り締まるのか。それは――、
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