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朝が来た。
灰村的には『朝になってしまった』という方が正しい言い回しである。
結局、彼が寮に辿り着いたのは、遠くの空が白み始めた頃であり、寝ようにも学校という(彼にとっては)意味のない場所に行かねばならない為、寝るに寝れない状況なのである。
「あと一時間半もしたら家を出ないといけないし、寝たら起きれないよね」
誰もいない部屋に灰村の言葉だけが虚しく響く。
独り言を言う癖があるワケではない。独り言でも言っていないと寝てしまいそうというだけの話だ。
魔術師になる気のない灰村は、サボってもいいと思っているのだが、サボってしまうと担任から厚さ五センチ程のプリントの束がプレゼントされてしまう。
流石にそんなリスクを負ってまでサボりたくはない。
だからこそ、意味がないと分かっていながらも出席だけはしているのだ。
「…………学校行って寝よう」
そうして彼は、いつもと変わらない日常がまた始まると思いつつ、非日常への第一歩を踏み出すのだった。
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