灰村諷音の非日常

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「さむ……」  玄関を出た途端、温度が一気に下がった。  冷たい風が身体に纏わりついてきて、思わず身を縮こませる。 「学校も寒いのもキライだけど、この景色だけは好きだな……」  視界に入ってくる一面の紅を眺めて灰村は感嘆する。  鮮やかな紅葉。  寮の前から学校までの通学路を絶やす事なく紅葉で埋め尽くされ、風に舞っては散っている。 「それにしても……、寒すぎやしませんか?」  話し相手がいるワケでもないのに、あまりの風の冷たさに文句が口から出る。  それでも、学校に着けば外よりは遥かにマシだ、と結論付けた灰村は、ズボンのポケットに両手を突っ込み歩を進める。  灰村の住む寮から学校までは、徒歩で一五分ほどの位置にある。  その学校までの一五分間を、灰村は眠気と格闘しながら競歩さながらの速度で進むのだった。  そして、予定していた到着時刻よりも五分ほど早く白塗りの校門をくぐった灰村は、いそいそと自分の教室へと向かう。  ちなみに、この学校は基本的に土足オーケーになっている。
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