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「ま、それはいいとして、今から帰り?」
「う、うん。聖女サンは誰かと待ち合わせ?」
「や、昨日手当てしてあげた男の子にお礼でもさせてあげようかと思ってね」
いつからお礼はさせられるものになったの? という疑問は、オブラートに包んで心の片隅にソッと置いておく。
だからといって、他人と出来る限り関わりたくない灰村は、
「そ、そうなんだ。うん、じゃあ、また明日……」
今作り出せる最大限の爽やかスマイルを浮かべ、別れの挨拶をして聖の前を通り過ぎる。
「い、いだだだだっ!?」
聖女サンに掴まれていた肩が、メキミシゴキッ! という異音を奏でる。
そのままの状態をキープし、耳元で、
「いや、昨日“手当てしてあげた男の子”にお礼でもさせてあげようかと思ってね」
“手当てしてあげた男の子”というフレーズを強く発音する聖女様の表情は、この上ない程の笑顔だった。
ただ、その笑顔が怖かった。
「………………」
「………………」
「な、何を献上すればよろしいでしょうか?」
絞り出した言葉の語尾が微かに裏返ってしまう。
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