始まりの日

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十六年前のとある冬…… 「寒くていけませんね……」 雪の降る街を一人の男が帽子やコートに雪を積もらせながら歩いていた。 男は眼鏡を掛けそして血のような深い赤い色の髪をしていた。 「やはり寒くていけませんね……」 そういっている間に彼の経営する孤児院が見えてきた。 「おや?」 その孤児院の前にはひとつの藁で編んだ籠が置いてあった。 彼が近づいて覗き込むとそこには一人の赤子がいた。 彼は赤子をすぐさま抱き抱えた。 赤子は腹部を毛布で包まれて、すやすやと寝息をたてていた。 赤子の右手には、カイと書かれた紙が握られていた。 「カイ君ですか……」 ふと左手を見ると、赤子は何かを握っていた。 「何でしょう?」 手を開かせると、それは指輪だった。 白い、今降る純白の雪のように白い、白い指輪だった。 「我が子への最後の贈り物ですか……」 そう呟き、彼はカイを抱いたまま孤児院の中に入って行った。
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