一章

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「神宝?」 「そうですわ。一般には、三種の神器の能力を細かく分けたものと言われています」 「三種の神器ってーと、剣と勾玉と鏡って、あれだな?」 「ええ」  草薙の剣、八尺瓊の勾玉、八咫鏡。  天照大神が、ニニギの命に与え、これを以って国を治めることを命じたといわれている。この三種の神器は王権のシンボルであり、この神器の継承なしには天皇の即位は認められていない。  ---四年前、までの話だが。 「え? でも」  それまで黙って話を聞いていた悟が、不思議そうな顔で話に入ってくる。 「草薙の剣、って壇ノ浦で沈んだんじゃなかったっけ。それに、君がもってるのも草薙って銘じゃなかった?」 「よくご存知ですわね」  奏華はそう言って背負っていた剣を降ろすと、見事な装飾が施された鞘から、美しい波紋の広がる剣を引き抜いた。  白刃に日の光が当たって、一種独特の雰囲気を作り出す。 「剣も、勾玉も、鏡も。今、あるものは全てレプリカですわ。あれら神器は人が持つには大きすぎる力。世界を鎮めるためにある、人ならざるものの力ですから」 「レプリカ……それもか?」  それにしては、この剣の持つ雰囲気はただごとではない。 双牙が問うと、奏華は少し困った顔で剣を鞘へとしまう。 「いえ、これは。本物、といいますか。壇ノ浦で極秘裏に引き揚げられた剣ですから、そうなのですけど、これがそのもの自体かといいますと、少し違っているといいますか」 「えー、と?」  首を捻る二人を見て、奏華がううう、と小さく唸り、目を閉じる。  ゆっくりと開いた瞳は、先ほどまでより落ち着いたものになっていた。 「……逃げたな、奏華」  諦め半分で呟くのは、『奏華』の中で長女的役割を果たしている、『静華』だった。自らの内に他人格を備える奏華は、時折こうして別の人格を表にだして苦境を乗り切ることがある。……今の話が、それほどのものだとは、あまり思えないのだが。 (説明は苦手なんですわっ)  拗ねる奏華の声が聞こえたような気がして、悟は小さく笑ってみる。  静華は一度ゆっくりと瞬きをし、二人を見据えた。 「神器の力はモノに非ず。その中に宿る『気』にある。私が持っている草薙は、本体から気だけを抜き取り、気の本質にもっとも近い形をとらせているに過ぎない」
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