一章

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「消せないかな、それ」 「どういうことだ?」  急に関係のないようなことを言い出す悟に、静華は努めて冷静に対処する。 「だから……人の目に見えないように、っていうか、必要な時だけ出せるようにするとかさ」  細身の刀身とはいえ、この不安定なご時世に刀を持って歩いているのは、かなり悪目立ちしていることは否めない。しかもそれを持っているのが可愛らしい女の子なのだから、尚更なわけで。  悟の言いたいことはわかるが、そっと草薙に手を触れさせて、首を横に振る。 「神子かサニワならばできようが……私は闘う者。剣を消すことはできない」  いつでもどこでも、闘えるようあること。  それが、自分の役割だ。 「サニワ?」  聞きなれない単語を耳にして、双牙が寄りかかっていた大岩から体を起こす。とっくに寝ているのかと思っていたが、ちゃんと起きて聞いていたらしい。 「神審者。神子に降りる神が善か悪かを見極めるもの」  サニワは、神子が神降ろしをするときには、必ず傍に控えている。サニワがいないと、神子の身に邪神が降りてもそれを制する者がいないことになり、大惨事を起こしかねないからだ。故にサニワというのは、自らの対となる神子と同等か、それ以上の神力を備えている場合が多い。 「神子さんのほうは?」 「神子は神を降ろし、邪を滅する者。その逆も然り。世の命運を左右する力を身に宿すのが、神子だ」  神子の力は本人の神力だけではなく、どれだけ強大な神をその身に降ろせるかにかかってくる。無論、本人に力がなければ神を降ろすことも、その力を使うこともできないが、何よりも求められるのは、神を降ろすための器の広さだ。  興味なさげに目を逸らしている双牙が、再び岩に背を戻す。その仕草に違和感を感じた悟が思わず目で追うと、視線に気づいた双牙が。 「何だよ?」 「え、あ……あ?」  挙動不審になる悟に、にやりと人の悪い笑みを浮かべて。 「俺に見とれてたのか?」 「---そ、双牙!」  けらけらと笑う相手に対して、真っ赤になって抗議する。彼の顔色が少し良くないように見えるのは、勘違いではないだろう。おそらく先ほど襲われた時の傷が疼くのだろうと思われる。奏華の式神のおかげで血は止まっていたが、流れ出た血が体内に戻るわけではないのだから。だが、それを言ったところで双牙が大人しく認めるとは思えない。  二人に気づかれないよう、小さくため息をつく。
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