一章

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 本当は、もっと静華に聞きたいこともあったのだけれど、なんだか聞ける雰囲気ではなくなってしまった。  神子やサニワとやらは、どこにいるのか、草薙の剣以外の神器、今天皇の下にあるのがレプリカならば、本物はどこにあるのか、それから十種の神宝についても。  奏華の『仕事』に同行しているのなら、せめてそれくらいは知っておきたい。どうせどこにも帰るあてはないのだし、十中八九、この先も暫くは彼女たちと行動を共にするのだろうから。  あまり人付き合いの得意ではない自分もそうだし、自分よりさらに苦手そうな双牙でさえ、彼女らとは自然に接している。警戒心や不信感を抱かせない何かが、彼女にはあるのかもしれない。そうでなければ、殆ど初対面の人間と、一緒に行こうなどとは絶対に思わなかったはずだ。  特に、あんなことがあったばかりで。 (………ぅ)  覚えている。忘れられるはずがない。  ---あの、冷たい感触を。 「悟」  自分でも気づかぬうちに首を押さえていた手を外されて、はたと目を見開く。男にしては白くて細い指が、手を掴んでいる。少し心配げに眉を寄せて、顔を覗き込んでいる双牙が、目の前。 「---っ!!」 咄嗟に大声を出しかけて、口を両手で塞ぐ。双牙の顔をアップで見るのには、まだ慣れない。双牙からしてみれば、失礼極まりない話だろうが、こればっかりは仕方ない、と諦めてもらいたい。  ……悟自身は、双牙に見惚れることもいい加減、諦めかけているから。双牙だけでなく、奏華に対してもそうなので、この先心臓がもつかどうかが疑問な今日この頃である。  跳ねる心臓を、深呼吸して抑えながら顔を上げると、鈴を転がしたような笑い声が聞こえてきた。その声に、静華が引っ込んでしまったことを知る。やはり、暫く質問はできないようだ。双牙のほうは、呆れ顔でそっぽを向いている。  恥ずかしさと居た堪れなさに苛まれ、思いついたことを口にしてみる。 「そ、そういえば双牙も確か特異体質だったよな」  というようなことを、どこかで聞いたことがある。……ような気がする。嘘八割な噂の中の一つだったが、どうやらそれは真実だったらしい。双牙は苦虫を噛み潰したような顔をして、仕方なさそうに舌打ちをした。 「そんな大層なもんじゃねーよ。ヘンなモンが見えるってだけで。……昔よりはマシになったしな」
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