一章

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 ため息と共に吐き出された台詞に、まずい事を聞いたかと表情を硬くする。言いたくないことを詮索したいわけではないのに、結果的にそうなってしまったことに、後悔の色を隠せない。  目に見えて落胆している悟に声をかけようとして。 「人はねぇ、七歳までは不思議な力をもっているんだよぉ」  能天気な声に、場の空気をもっていかれる。  ニコニコと話すのは少し高めのソプラノ。奏華の人格の中で、末っ子的存在の、泣き虫の世華だ。彼女が戦いの中で役に立つことはまずないが、張り詰めた緊張を解きほぐすのには最適な人材といえよう。事実、彼女ののんびりとしたムードのおかげで、ついさっきまでの空気はどこへやら。  これみよがしに盛大なため息をついた双牙を完璧に無視して、世華は笑っている。 「でも、俺は見たことないけど」 「人それぞれだよぅ。住人戸色って言うでしょう? 悟くんみたいにぜーんぜん見えない人もいれば、双牙くんみたいに今でもしっかり見えちゃう人もいれば、わたしみたいに見えないものを見えるようにしちゃう人もいるしねぇ」  それをいうなら十人十色じゃないだろうか。つっこみたいところをあえて流して、ふぅん、と頷くだけにとどめておく。  なんとなく、面白くない。仲間はずれみたいで。  そんなに見たいのかと聞かれればそういうわけでもないのだけれど、二人が見えているものが見えていないということが、なんとなく、こう。  ……寂しいというか。  黙りこんだ悟を、やっぱり綺麗に無視して、世華が。 「でね、あと二つの神器をみつけるのを、手伝ってほしいんだぁ」  正確には、神器を盗み出すことを。 (いやそれ犯罪だから!)  つっこもうとして、思い直す。  神器がどこに置いてあるにしろ、今の世の中じゃ窃盗くらいじゃ大した罪には問われない。なぜなら、四年前の大地震以降、未だ復興途中の街や、形ばかりの政府からとっくに見捨てられた地方都市などは、生き残った人たちによる強盗事件や殺人事件があとを絶たないからだ。乱暴な言い方をすれば、たかだか窃盗をしたくらいで躍起になって追いかけるほど、警察は暇じゃないということになる。  しかもその盗まれるものが、正式に祀ってあるわけではないのだから、なおさらだろう。神器は天皇のもとにある、ということになっているのだから。
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