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だが、男はそれこそ面白そうに喉を鳴らし、影に隠れてその姿さえ見せない少女に手を伸ばした。
「私が怖いか」
若々しい手から感じられる力強さと、低く落ち着きのある声が相まって、ぞくりとするほどの冷淡さが背を駆け抜ける。
動きたいとは思っても、体が硬直してしまって動けない。
恐怖、とも違う。
圧倒的な、威圧感。
指が白くなるほど握り締めた手をそのままに、せめて崩れ落ちるようなことにならないよう、必死で自分を鼓舞している彼女に、男は変わらぬ微笑をのせたまま、伸ばした手を引き戻した。
「勾玉を、私のもとへ」
「---承知」
氷の呪縛から解き放たれた少女が、低い返事を残して髪を翻す。
再び一人になった青年は、薄闇のなかでゆっくりと目を閉じた。
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