二章

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「オン バザラギニ ハラチハタヤ ソワカ」  奏華が唱えた呪に応えて、二枚の札が微かな光を湛えて明滅する。刀印で晴明桔梗を描くと一瞬光が強さを増し、札に吸い込まれるように消えていった。 「はい。この御札、絶対に離さないでくださいましね」  二人に一枚ずつ渡して念を押す。特に双牙に。当の双牙は胡散臭げにそれを眺めたあと、半ば押し込めるようにジーンズのポケットにしまいこんだ。悟も一応たたんでポケットにおさめたのを確認して、もう一度刀印を切る。  三人は、すでに宮中にいた。田舎町のようにさびれることはなかったが、歴史的価値のある古い建物はもちろん、建て直されたばかりのものまで全て倒壊したこの地に、今は瓦礫の山が広がるだけだ。  世華が宮中にある、といった時にはいくらなんでも無茶だろうと思ったものだが、天皇家は地震の直後に居を移しており、現在はそちらの整備に人をまわしているため、こちらには誰一人いないというのが現状だった。  当然、神器も天皇とともに移動していると思いきや、レプリカのほうは持っていったが、本物のほうは此処においてあるそうだ。  奏華曰く、本物はここを離すわけにはいかない、そうだが。 (それを取りにきてるんだよな?)  矛盾してるんじゃないだろうか。  そう言ったら、今は非常事態なんです、と言い返された。それに、天皇家はそれを持っていけない、とも。 『神器は、楔ですから』  世界が世界であるために必要な楔だと。  奏華は真面目な顔で言ったのだ。 (楔……)  どういう意味なのか、はっきりとはわからなかったけれど、それを取りにきたということは、かなり大変な事態なんじゃなかろうか。  今までは深く考えていなかったけれど、この世界は今、どうなっているのだろう。  思わず身を震わせた悟の横で、双牙が。 「げ、うじゃうじゃいやがる」  うんざりした声で呟いたのを、悟は聞き逃さなかった。一体何事かと双牙が見ている方向へ視線を移して凝視してみるが、別段変わったところはみられない。  瓦礫だらけなのは仕方ないし、それ以外には緑があって、鳥が鳴き、柔らかな風が吹く、いい場所だ。少なくとも、悟に見えるのは、そんなところで。しかし、悟に見えないモノが見えている双牙は、ひょいと身を屈めて奏華に声をかける。彼女の身長は、悟や双牙の肩あたりまでしかなかった。 「勾玉ってのはどこにあるんだ?」
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