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朽ちてゆく自分を想像しても怖くないのは、本当は知っているからだ。
---自分が、死んだりしないということを。
なぜなら。
ふいに、淡い光がうまれた。
暗闇の中に浮かぶ、頼りないほど微かな光。けれどそれは、この暗闇のなかでただひとつの、確かな。
光だ。
「ナウマクサンマンダ・ボダナン・ドボウシャナン・アビユダランジ・サトバタトン・ソワカ」
神威を伴う声が響くに連なって光は強くなり、果てにはこの身が焼付きそうなほどの熱量をもつ。
パン!
拍手を打つ音と同時に、空間が破裂する。
「は……」
急に現実に引き戻されて呆然としていたが、太陽の光と草の匂いを感じて大きく深呼吸した。
もう黒い霧も、異臭もない。
「助かったー……」
「気ぃ抜いてる場合じゃねぇぞ」
あの空間から抜け出せたことに安堵して、へたり込みそうになっていたところへ肩をたたかれて、慌てて背筋を伸ばす。黒い霧がなくなったおかげで、双牙は元気を取り戻していた。血の気が失せていたことが嘘のようだ。
「そうですわね。勾玉の光が見えなくなってしまいましたわ」
のんびりした口調にも聞こえるが、焦りの色は隠しきれない。
「今のは囮ってわけか」
リン……ッ
「え?]
目を見開いて、振り返る。
「だから、今のは囮だって……」
「違う! 聞こえないのか? --また!」
訝しげな双牙の視線をものともせずに、悟は一直線に駆け出す。一瞬遅れた二人も後に続いた。
「どこ行くんだよっ!」
「知らないってば、そんなの!」
怒鳴る双牙に、怒鳴り返す。
悟自身にも、わからないのだ。ただ、涼やかな鈴の音が、自分を駆り立てているということしか、わからない。
待っている。
何の根拠もないが、そう信じられる。
何のことだがわからないが、それだけはわかるのだ。
だから行かなきゃ。早く行かなきゃ。
アレハオレヲマッテイルノダカラ。
「悟!」
耳のそばで空を裂く音が聞こえた瞬間、悟は突き飛ばされていた。受身もとれずに転がった体に、細身の長身が覆いかぶさる。そのすぐ後を、硬い金属音が続く。何かに弾かれたようだ。
勢いあまって地面に右肩を打ちつけ、鈍い痛みが背骨を伝って足まで痺れた。温かくぬるついた液体が、悟の頬に落ちる。
(何だ……何があった?)
あっというまの出来事に、思考が追いつかない。
「ジャマすんじゃねぇよ、雑魚がっ!」
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