二章

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 朽ちてゆく自分を想像しても怖くないのは、本当は知っているからだ。  ---自分が、死んだりしないということを。  なぜなら。  ふいに、淡い光がうまれた。  暗闇の中に浮かぶ、頼りないほど微かな光。けれどそれは、この暗闇のなかでただひとつの、確かな。  光だ。 「ナウマクサンマンダ・ボダナン・ドボウシャナン・アビユダランジ・サトバタトン・ソワカ」  神威を伴う声が響くに連なって光は強くなり、果てにはこの身が焼付きそうなほどの熱量をもつ。  パン!  拍手を打つ音と同時に、空間が破裂する。 「は……」  急に現実に引き戻されて呆然としていたが、太陽の光と草の匂いを感じて大きく深呼吸した。  もう黒い霧も、異臭もない。 「助かったー……」 「気ぃ抜いてる場合じゃねぇぞ」  あの空間から抜け出せたことに安堵して、へたり込みそうになっていたところへ肩をたたかれて、慌てて背筋を伸ばす。黒い霧がなくなったおかげで、双牙は元気を取り戻していた。血の気が失せていたことが嘘のようだ。 「そうですわね。勾玉の光が見えなくなってしまいましたわ」  のんびりした口調にも聞こえるが、焦りの色は隠しきれない。 「今のは囮ってわけか」  リン……ッ 「え?]  目を見開いて、振り返る。 「だから、今のは囮だって……」 「違う! 聞こえないのか? --また!」  訝しげな双牙の視線をものともせずに、悟は一直線に駆け出す。一瞬遅れた二人も後に続いた。 「どこ行くんだよっ!」 「知らないってば、そんなの!」  怒鳴る双牙に、怒鳴り返す。  悟自身にも、わからないのだ。ただ、涼やかな鈴の音が、自分を駆り立てているということしか、わからない。  待っている。  何の根拠もないが、そう信じられる。  何のことだがわからないが、それだけはわかるのだ。  だから行かなきゃ。早く行かなきゃ。  アレハオレヲマッテイルノダカラ。 「悟!」  耳のそばで空を裂く音が聞こえた瞬間、悟は突き飛ばされていた。受身もとれずに転がった体に、細身の長身が覆いかぶさる。そのすぐ後を、硬い金属音が続く。何かに弾かれたようだ。  勢いあまって地面に右肩を打ちつけ、鈍い痛みが背骨を伝って足まで痺れた。温かくぬるついた液体が、悟の頬に落ちる。 (何だ……何があった?)  あっというまの出来事に、思考が追いつかない。 「ジャマすんじゃねぇよ、雑魚がっ!」
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