二章

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 純和風の佇まい、必要以上に広い『屋敷』の一番奥。家人と関係者、ほんの一部の人間しか立ち入らないその部屋で、脇息に凭れたまま顔色悪く俯いている峰人を見つけたのは、彼の親友であり相棒である、八雲隆斗だった。 「峰人、どうした」  神子よりも少数であると言われる、極めて希少な神審者。そして彼が護る神子こそが、奏華の兄であり、妖怪ハンターの総帥である、滝原峰人だった。  白い肌に、華奢な体つき。もう何年も前から病弱な体は、日の光にあたることすら辛いほどになっていた。その肌の白さと、黒い瞳、黒い髪だけが、彼を形作る色のすべてだった。 「いえ……なんでも……」 「峰人」  ごまかそうとしても、通じる相手ではない。低い声音で窘められて、細く息を吐く。 「--奏華に、嫌な気配が近づいているんです。何も起こらなければよいのだけれど……」  こんな仕事をしていて、何かが起きる、というのも今更だが、声に出された不安は急速に高まっていく。  多少呆れ気味に髪を掻き揚げた隆斗が、軽く肩を叩いてやる。 「そんなに気になるんなら、占いでもしてみればいい」 「ええ、そうですね」  だるそうに持ち上げられた顔は、白いを通り越してただ青白い。隆斗は居た堪れなさに眉を潜めて、占者を呼び出した。  組織に属する者の中でも、最も優れた占い師だ。無駄口を叩かず、いつも沈着冷静な彼の占いは、九割の確率で当たると、組織内でも有名である。  急な呼び出しにも全く動じることなく、即座に現われた彼は、もしかしたら事前に占ってわかっていたのかもしれない。そんな風に思うほど、迅速かつ的確な占いだった。  落ち着いた視線を伏せ、数分後。 「……奏華さまは、北東、鬼門へ向かっております」  静かな声で呟くように流れ出た言葉に、峰人よりも隆斗が顔をしかめた。 「馬鹿か、あいつはっ」  鬼門は最も忌むべき方向。そんなことは、奏華だってよく知っているはずなのに。いきなり大声をあげた隆斗が、自前の呪いグッズの山を探り、三枚の札を取り出す。
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