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(え?)
リン……
冴えた鈴の音を聞き、はじかれたように顔を上げる。音は、少女が抱える、あの木箱から聞こえてくるようだ。
リン……
「……なあ双牙。勾玉って、鈴みたいな音、するのか?」
「はぁ?」
双牙が訝しげに睨むのとほぼ同時に、奏華が地を蹴って少女との距離を縮める。男性二人を護衛するのは、蜂比礼と品物比礼の式神だ。
耳をつんざく剣戟の音。満身の力を込めて振り下ろしたはずの草薙を、少女は片手で押さえる。その手には、いつの間にか元の形に戻っていた八握剣が握られていた。
皮肉げに吊り上げられた唇は、ぞくりとするほど悩ましい。
「っくう!」
片腕で弾かれ、空中で一回転して見事着地する。その横を、物体として捉えられる何かが走り抜けた。
「ええっ」
「な……」
まず奏華が目を走らせ、次いで双牙が声を上げる。
「その勾玉……っ」
走り出したのは、悟だった。
真っ直ぐに、少女を。
---正確には彼女が抱えているものを目指して。
止めようとした双牙の腕を退け、あっけに取られる奏華の横を抜け。
「返せよ……っ!」
何の違和感もなく飛び出した単語の、意味を考えることもなく。
(あと少し!)
箱まであと数センチというところまで伸ばした指先が、触れるか触れないかの位置で見えない壁に弾かれてしまった。
「って!」
「---! 奏華っ」
「あ、ハイ!」
姿勢を正して、印を結ぶ。だが、相手のほうが早かった。
「雷光招来、急々如律令!」
少年とも間違えそうな声が呪を唱えると、地面を削るような凄まじい音がして、咄嗟に三人は耳を塞ぐ。その様子を見届けた少女は口端に僅かな笑みを刻ませて、土煙を煙幕かわりに空中へ身を躍らせた。
リィ……ン……
「あ……」
悲しげな音が遠ざかるのに気づいて姿を追った時には、もう後姿すら見えなくなっていた。
「……聞こえない」
泣き声にも似た、あの鈴の音が。
(あれは、勾玉の?)
しかし、悟の思考は奏華の悲鳴で中断させられた。何事かと振り向くと、もう勝手にしろとそっぽを向いた双牙。当の奏華は土だらけになった洋服を、懸命に払っていた。
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