0人が本棚に入れています
本棚に追加
まだまだ幼い奏華の笑顔とそれを誘う二人の笑顔。
彼らは守ってくれるだろうか。我等の大切なお姫様を。峰人にとっても隆斗にとっても、そして『組織』にとっても。彼女はなくてはならない存在だ。
剣に選ばれ、剣を選んだ。
今現在、この世でただ一人の聖なる継承者。
それが彼女であったことは、果たして救いになるのか。
(否、だな)
即座に否定する。
救いなどありはしない。
あの時感じた絶望と後悔は、今も尚深くなるばかりだというのに。
いまさら、救いなど見えはしない。
隆斗は一度眼を閉じ、そのまま口端を歪めた。
(俺が悲観してどうする)
悲観するのはこの宗主だけでいい。隆斗がすべきことは彼を浮上させること。
自嘲じみた苦笑を呑み込み、不安げな宗主へと目線を移す。
交わった視線はこんなにも真っ直ぐなのに、どこか頼りない。
「心配するな。何かあったら俺が奏華を護ってやるから」
「ええ……ええ、そうですね。私がこれでは奏華が心配しますから」
無理な笑いを作り、兄は妹を想う。
けれどきっとそれは無理だと、どこかでわかっていた。
隆斗の手にすがることを奏華が承知するとは思えない。
だが、一時の安らぎにでもなるというなら、自分たちがそれに縋るしかない。
自分勝手でどうしようもない理屈だ。
奏華には決して伝えることのない、二人だけの自己満足に過ぎない。
水鏡の中の奏華は幸せそうで、それだけが彼らの救いだった。
最初のコメントを投稿しよう!