三章

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 まだまだ幼い奏華の笑顔とそれを誘う二人の笑顔。  彼らは守ってくれるだろうか。我等の大切なお姫様を。峰人にとっても隆斗にとっても、そして『組織』にとっても。彼女はなくてはならない存在だ。  剣に選ばれ、剣を選んだ。  今現在、この世でただ一人の聖なる継承者。  それが彼女であったことは、果たして救いになるのか。 (否、だな)  即座に否定する。  救いなどありはしない。  あの時感じた絶望と後悔は、今も尚深くなるばかりだというのに。  いまさら、救いなど見えはしない。  隆斗は一度眼を閉じ、そのまま口端を歪めた。 (俺が悲観してどうする)  悲観するのはこの宗主だけでいい。隆斗がすべきことは彼を浮上させること。  自嘲じみた苦笑を呑み込み、不安げな宗主へと目線を移す。  交わった視線はこんなにも真っ直ぐなのに、どこか頼りない。 「心配するな。何かあったら俺が奏華を護ってやるから」 「ええ……ええ、そうですね。私がこれでは奏華が心配しますから」  無理な笑いを作り、兄は妹を想う。  けれどきっとそれは無理だと、どこかでわかっていた。  隆斗の手にすがることを奏華が承知するとは思えない。  だが、一時の安らぎにでもなるというなら、自分たちがそれに縋るしかない。  自分勝手でどうしようもない理屈だ。  奏華には決して伝えることのない、二人だけの自己満足に過ぎない。  水鏡の中の奏華は幸せそうで、それだけが彼らの救いだった。
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