終章

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 大きなため息をついて落ち込んでいる悟に労わりの言葉をかけることもなく、二人の話は休む場所を決めるまでに至っている。気づけばいつの間にか街中に入っていたようで、落ち込むあまり自分のいる場所にすら気づかなかったという事実に、さらに輪をかけて落ち込んでしまう。どんよりとした雰囲気に、ただでさえまばらな人影が遠巻きに三人を眺め、じりじりと遠ざかっていく。  双牙や奏華は観賞に値するが、それ以上に悟が纏う澱んだ空気が彼らを直視することを拒んでいた。 「---悟、お前な」  耐えかねた双牙が怒鳴りつける前に、奏華が腕を引く。どうやら目的の場所についたようだ。とりあえず入りましょうとドアを開ける奏華にしぶしぶ頷いて双牙が入り、のろのろと悟が続く。  レトロな雰囲気の喫茶店は意外と明るく、落ち着いた曲が流れていた。四人がけのテーブルが三つにカウンター席が六席と小さな店ではあるが、店内は清潔だしなかなか良い店だ。大地震以降、こういった個人経営の店などはのきなみ潰れてしまっていて、今では大きな都市でも片手で足りるほどしか見かけなくなっていた。  窓際の一角を押さえてから、電話してきます、と奏華が席を外す。間も無くして、オーダーを勝ち取ったウェイトレスが双牙と悟、それから悟の隣に氷たっぷりの水を持ってきた。双牙はちらちらと視線を送るウェイトレスにお愛想程度の笑みを傾け、コーヒー二つと紅茶を頼み、早々に追い払ってしまう。てっきりいつもの仏頂面でそっぽを向いているものだとばかり思っていた悟が心底意外そうな目を向けると、やはり不機嫌に眉をひそめて目の前の水を持ち上げた。 「なんだよ」 「あ、うん……笑うんだな、と思っただけ、なんだけど」  歯切れ悪く言うと、ますます眉間にしわを寄せる。 「当たり前だろ、お前俺を何だと思ってんだよ」 「あぁうん、ごめん」  睨まれて謝る。  だけど、自分が知る双牙の表情は、往々にして不機嫌なものばかりだ。  コップの中の氷が、カランと音をたてる。双牙が怪訝そうに唇を歪めたところでまたもや彼に見惚れていたことに気づくが、いい加減照れもなくなっていた。 (双牙といい奏華ちゃんといい、ほんっと目立つよなあ)  ぐるりと店内を見回し、少ない客と三人ほどのウェイトレス、カウンターの中のマスターらしき男性を経て、再び双牙に視線を戻すと、彼はグラスを持ったまま窓の外に顔を向けていた。
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