終章

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 徐々に暗くなる店外、その窓に映る横顔はまるで絵画のように美しい。  グラスを持ち上げて水を飲む仕草が、絵ではなく人なのだと教えてくれたけれど、そうでなければ本当に、芸術だと思ってしまいそうで。 「……キレイ、だよな。双牙って」  ぐっ。  噴き出しかけた水を寸でのところで堪えた双牙が、大きくむせこんだ。 「だ、大丈夫か?!」  驚いて声をかけたら、息苦しさで涙目になった目で思いっきり睨まれた。 「おっ……前、とうとう頭イカレたか!」  真っ赤になって叫んでいるところを見ると、こうして面と向かって言われたことはないらしい。いつもは自分で『見惚れたか』などとふざけているくせにと少々意外な気もしたが、考えてみれば双牙相手にこんなこと言う人のほうが珍しい、というかいないだろう。  そう考えると、随分命知らずなことを言ってしまったのかもしれない。自分で自分に感心しつつ、心中青くなりながら双牙をなだめる。  直後、電話から戻った奏華とウェイトレスが同時に席へやってきた。  悟が内心助かった、と安堵したのは言うまでもない。 「お待たせいたしました」 「ありがとう」  飲み物と伝票を置いて去っていくウェイトレスを見送って、それぞれに注文品を手渡す。 「どうかしましたの?」  双牙の変化を見逃さず、小声で問いかけてくる。 「双牙が綺麗だって話」 「まあ」  なんてわかりやすい、不機嫌の原因。奏華自身も双牙のことは綺麗だと思っている手前、それ以上追求せずに聞き流すことにする。 「……で。なんだって? 八雲サマは」  ブラックのコーヒーに口をつけて、双牙が問う。奏華も紅茶を一口飲んで、邪魔になる草薙を脇におろした。店の人は何かの小道具とでも思っているのか、草薙についてなにも言わない。それとも『君子危うきに近寄らず』といった心境なのだろうか。  どちらにしろ、つっこまないでくれるのはありがたい。 「勾玉はあちらで行方を追うそうです。わたくしたちは残る一つの鏡を探せということですわ」 「鏡ぃ?」  嫌そうな顔で繰り返し、コーヒーを飲み干す。悟も空になったカップを置いて奏華の話に耳を傾けた。 「ええ、八咫鏡。三種の神器の最後の一つですわ」 「どこに?」 「伊勢の方ですわ」 「……っ」  向かいの双牙が息を呑む。けれどそれは一瞬のことで、興味なさげにそむけた顔はいつもと変わりなかった。 (気のせい……?)
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