俺と風那の夏祭り

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  ネガティブに入った風那をどうしようかと悩んでいると、風那はそのことに気付いたのか慌てていつも通りに振る舞い始めた。 「あっ、そうだ!早くヨーヨー釣りに行こうよっ!どこにあるの?」 「ん?あぁ、そうだったな。確かこっちだった気がするぞ」 「えへへ、ありがとっ。じゃあ気を取り直してレッツゴー!」 風那は今度は俺の腕を自分の腕と組ませて歩き始めたが、俺は黙って風那を見ながら歩くことしか出来なかった。 風那が無理に明るく振る舞っていることが分かったからだ。 そんなにあのぬいぐるみが欲しかったのか。 「えいえい、やぁー!……うん、やっぱり水風船楽しいなっ」 「いや、どう考えても四つは多いだろ。おじさん、『あれ?こんなにも釣れるもんだったのか?』って顔してたぞ」 「まぁ、いいじゃん。そのおかげで透弥君も遊べるんだからさっ。それに五つ目はわざと落としたんだよ?気付かなかった?」 どうやら人には向き不向きがあるらしい。 俺なんて一つ釣れるか、一つも釣れずにおまけとして一つ貰うかのどちらかだというのに。 まっ、ともかくこれでだいぶ気が晴れたみたいで良かった。 そしてその後、俺達は祭りを大いに楽しんだ。 食べ物は定番の焼きそばとりんご飴とかき氷を食べた。 あとは盆踊りにも参加した。 盆踊りは久しぶりに踊ったので他の人の見よう見まねで頑張ったのだが、結局風那に笑われてしまった。 まったく、あんなにも笑う必要はないだろうに。 しかしやはり風那はぬいぐるみが心残りなのか、たまに射的屋の方を向くことがあった。 俺はなんか見ていられなくなって、祭りが終わる頃にトイレに行くと言って射的屋に向かった。 「おじさん、やらせてくれ!」 「ん?お前は……。そうか、頑張れよ!」 そして俺は何回か挑戦して、なんとかぬいぐるみを落とすことに成功した。 そう、人には向き不向きがある。 それを補ってこそ、真の友達というものだ。 「風那。ほら、取ってきたぜ!」 「う、嘘……透弥君、トイレじゃなかったのっ?それに資金はもうないはずじゃ」 「あれは冗談だ。嘘も方便ってとこか。あと資金はなくなったが、俺は金を持っていたからな。一回分で取れたし気にするな」 「うん、うん。ありがとね、本当に……」 実際は一回分じゃなかったがそれも気を使わせないための方便だ。 俺と風那の夏祭りはこうして終わったのだった。
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