最高で最悪なライバル

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  俺の高校初めての夏休みのほとんどはそんな夏祭りぐらいしか思い出にない。 いや、確かに正確に言えばもっとある。 しかしそれはいつもの休日と同じ過ごし方だとか、母方と父方両方の実家や墓参りに行くという毎年恒例のことだとかで、別にどうでもいい内容だった。 と、そんなことを思いながらダラダラ過ごしていた夏休みの終わり頃、唐突に俺の携帯電話が鳴った。 まぁ風那か虹海、それか中学時代の友人だろうと思い、緩慢な動きで携帯電話を取って開いた。 それは完全に予想外だった。 携帯電話に映し出された名前はその誰でもなく、ましてや親戚関係というオチでもなく、今年知り合った少女の名前だった。 『紫鳳院すみれ』 その名前を見た瞬間、俺は慌てて通話ボタンを押した。 この時のスピードは脊椎反射だったんじゃないかというくらい速かったと思う。 「も、もしもし?」 『あ……もしもし、透弥?私だ、紫鳳院すみれだ。あまりに遅いから心配したぞ』 俺が出ると紫鳳院は安堵の溜め息らしきものを吐いた。 流石にあれだけ待たせるのは良くなかったみたいだ。 「それくらい紫鳳院だって分かるって。あと遅れてごめんな、少し暑さにやられていたんだ」 『む、ありがとうと言っておこう。それから、熱中症には気を付けるんだぞ。今は声の調子からしたら大丈夫そうだが、一応忠告しておいてやる』 「どういたしまして。それからありがとな」 紫鳳院のありがとうは俺の分かったが声で分かったと勘違いしたからだろう。 まぁ、否定するのもあれだからここは黙っておくけど。 『では挨拶が済んだところで本題に入らせてもらう』 「それもそうだな。紫鳳院が俺に電話をしてくるのは大抵用事関連だしな。まっ、そう来ると思ってたぜ」 『私はそんな風に思われていたのか……』 「ん?何か言ったか?よく聞こえなかったんだが」 『いや、すまん。こっちの話だ、透也は気にするな。それから今、透也は暇なのか?』 「んー、そうだな。暇って言えば暇なんだろうな」 『なら短刀直入に言うが、今から例の喫茶店に来てくれないか?その、直接話したいから……じゃなくて、これは直接話した方が良い話だからだ。でも本当は忙しいのなら明日や明後日でも良いぞ?』 「あっ、それなら大丈夫だ。気にしなくて良い、今からすぐにでも行けるしな」
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