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しかし、私は見逃さなかった。
後ろに向き直る瞬間の茜さんの顔を。
苛立ったような、呆れたような。
え…何?
私なんか悪い事言った…?
でも、優しく言ったつもりだし、分かってくれたと思ったのに。
可愛いくて礼儀正しい茜さん。
だから、私は疑わなかった。
茜さんが2つの顔を持っていた事など―――。
「奥様、入ってもよろしいですか?」
夕方。
子供の部屋で里海と遊んでいると、突然ドアがノックされた。
この声は…。
「どうぞ。」
答えるとドアがゆっくりと開いていく。
ドアから顔を覗かせたのはやはり拓海君だった。
「失礼します。…お嬢様ですか?」
里海を見るなり目を細めた拓海君。
「そう。里海っていうの。二歳なんです。」
「話しには伺ってましたが…可愛いらしいですね。はい、お嬢様。」
しゃがみ込んだ拓海君の手に握られていたのは、色とりどりのお花達。
わぁ…キレイ…。
里海は喜んでそれを受け取った。
「ありがとう拓海君。…この花は…」
「来る途中に花屋を見つけて…是非お嬢様にと思いまして。」
にっこりと微笑んだ拓海君に、嬉しくなってしまう。
里海の事まで考えてくれるなんて…優しい人なんだなぁ。
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