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ドアを勢いよく閉め、走り出した瞬間。
ドンッ!!
何かにぶつかり、私は尻もちをついてしまった。
「いたた…」
「すみません奥様!」
上から降ってきた声に、目を見開いて見上げる。
「拓海君…?」
そこには、作業着姿の拓海君が立っていた。
拓海君は私を優しく立たせると深々と頭を下げる。
「すみませんでした、お怪我はありませんか?」
「いや、私が前を見てなかったから…ごめんなさい。」
私も頭を下げ慌てて謝った。
拓海君が謝る必要なんか全くない。
私が前も見ずに…しかも廊下で走ろうとなんかしたから…。
拓海君は小さく微笑み、首を振った。
「奥様…悲しいお顔をされてますね…どうかなさいましたか?」
そう言った顔は心配そうに私を気遣う。
その優しい声に思わずこらえていた涙が頬を伝った。
「奥様…。」
また優しく名前を呼ばれ、咄嗟に顔を伏せる。
その途端、私は逞しい腕の中にすっぽりと包まれていた。
「拓海く…」
びっくりして名前を呼んだその時。
「…どういう事だ。」
後ろから、怒りに満ちた声が聞こえてきた。
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